スノーランタンの森づくり

 この猛烈に降る雪を前にすると、テレビに映る雪のない地域のことを未だに少し羨ましく思ってしまう。
 都会に憧れていた若い頃は、雪の多さが遅れた田舎度を表すような風潮があり、卑屈になる一番の理由でもあった。時代は高度経済成長期。雪ばかりではなく、山や田畑など田舎のものはすべてがそう思えた。
 少し大人になって、田舎を素直に好きと思えるようになった頃には、都会に住む同じ世代の若者達に、私の住む朝日町や自然を好きになってもらいたい。遊びにきてもらいたい。なんとかして彼らを羨ましがらせたい。いつもそんなことばかりを考えていた。やさしい灯りをもたらす蜜ロウソク製造すら、実はそんな思いが後押ししたことは否めない。
 そうして生まれた冬のワークショップがある。20年以上前から開催している「スノーランタンの森づくり」である。
 アウトドア情報誌で紹介されていた、雪玉を重ねて作る「スノーボールランタン」を試したのが始まりだった。雪でランタンのシェードを作り、中に手づくりした蜜ロウソクを灯す。灯りが雪のすき間からこぼれ、雪そのものも透かし出し、予想しない美しさを見ることができる。森で収穫された蜜蝋と、煩わしい雪を使い、森を感謝の灯火で照らし出す。
 当時は、所属する朝日町商工会青年部の仲間と「ブナの森スノーランタンコンテスト」と題して、日本初の大きなイベントにしたこともあった。だが、一回目は残念なことに、ほとんどの参加者が雪像や雪灯篭作りになってしまった。スノーランタンのイメージが伝わっていなかったのだ。
 ところが、唯一とても理想的なランタンを作って下さった方がいらした。人気アニメキャラの「トトロ」の親子が、「ぽっ」と木の根元に現れたのである。灯りが見事に雪を透かし、トトロのデザインが浮き上がっていた。さらに、その灯りは木の幹までも優しく照らしていた。森の中のロマンチックな小さな風景を前に、参加者もスタッフもため息まじりで見入ってしまった。
 雪の中でロウソクを灯す催しは、「雪灯り」と称してどこでも作られているが、少し工夫すれば、このようにさらに美しい風景を楽しむことができるのだ。せっかくなので、長年続けてきたこだわりの作り方を紹介したい。
 作り方には「雪レンガ積み」と「くり抜き」の二つの方法があり、これを組み合わせればさらに巧みな作品に仕上げることができる。
 「雪レンガ積み」は、スノーボールランタンを応用したもので、タッパーなどの容器を型に雪を詰め込み、レンガ状の固まりを積み上げるもの。重要なポイントは、厚さを5〜6センチ以内にすること。これが分厚いと雪そのものを灯りが透かさないから、きれいさに欠けてしまう。
 雪レンガは途中で崩れないように堅く作る。うまい人は背丈以上の高さに積み上げる方もいらっしゃる。寒くて固まらないサラサラ雪の時は、湿気った雪を下のほうから掘り出すか、じょうろで水をかけながら作るといい。
 また、基本的にランタンなので、風が吹いても消えないようにすき間を広くしないことも大切だ。点灯時に吹雪いて、度々消され楽しめなかった人をこれまで何人も見てきた。
 「くり抜き」は、雪像作りのように固めた雪を、お玉やスプーンを使って背面から削ってくり抜くもの。前述のトトロもこの方法を使った。雪を大きく固めるには、コンポスターやゴミ用の大きなポリバケツを使うとてっとり早い。雪を積め、足で踏みつけて固める。
 全体を目的の形に整えたら、ここで外側のデザインを刻みつける。中をくり抜いてからだと壊れやすいからだ。1〜2センチの深さに刻んだだけで、漏れ出す光にコントラストができるので濃淡を予想しながら刻んでいく。
 そして、邪魔しない背面から中の雪をくり抜く。やはり壁の厚さは5〜6センチ。くりぬく為に開けた穴は、風が入らないよう雪レンガでふさいでおく。
 それから、灯すロウソクは細長いほうがいい。雪が降っても溶け口が狭い分、消される確立が低い。うちではランタンを作る前に、溶かした蜜蝋に糸を何度も浸して付着させる方法で楽しんでもらっている。ロウソクは、そのまま立てると雪の中に沈んでしまうから、底に楊枝を刺して立てるといい。
 会場はなるべく樹木がある所、できれば暖のとれる施設近くの森がいい。点灯すると、ランタンと共に樹木が照らし上げられ、本当に美しい風景となるからだ。ただ、幹まわりは雪が溶けていて落とし穴になる場合があるので、事前に埋めておく必要がある。
 点灯のタイミングもとても重要だ。暗くなってから灯したのでは、きれいさが半減してしまう。雪が青く見えはじめる直前に点灯すれば、暗くなるまでの灯りの変化を楽しむことができる。むしろそのわずかな時間こそがクライマックスなのである。
 観賞会では、森で採れたトチノキのハチミツをたっぷり入れたホットワインやココアをふるまっている。寒さが厳しかったり、吹雪いたりすると、製作は辛い作業になることもあるが、点灯するとみんなが笑顔になる。
 コンテストをやっていた頃、一度だけテレビの全国放送で紹介していただいたことがあった。雪が降る中での大変な取材だったが、点灯すると、カメラマンが感動の声をもらしながら撮影してくれた。
 後日テレビに写し出された映像は、その感動をそのまま伝えてくれていた。私は、雪国に住んでいて良かったと思う理由を、また一つ心に増やすことができた。そして、しめしめと思った。

(2013年1月 グリーンパワー3月号(森林文化協会)連載「ハチ蜜の森のともしび」より)

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