繋がリ伝えるハチミツの森体験教室

「あったかくて、優しくて、嬉しくて、楽しくて、なつかしくて、不思議で、ちょっとせつなくて、ありがたくて、とてもいい気持ち」お客様からいただいた蜜ロウソクを灯してみての感想をまとめるとこんな感じになる。
 そんな蜜ロウソクの製作体験をベースにした「ハチミツの森体験教室」は、私が主催したり、申し込みを受け、学校や子ども会などを対象に、週に一、二度行っている。ミツバチ観察、ハチミツしぼり、ハチミツの森案内、スライド映写、蜜ろうの灯りを楽しむ会など、 時間や季節にあったメニューを組み立てている。ミツバチの生態よりも、このあたりで養蜂や蜜ロウソクの仕事がどんなふうになぜ営むことができるのか、その「つながり」や「地域らしさ」をテーマにしている。

[ 驚きの蜜ロウソク作り体験 ]
  蜜ロウソク作りの体験教室の初めには、参加者の中から特に積極的な子一人に、代表してミツバチの巣を使った実験をおもしろおかしく手伝ってもらっている。まず、一枚のミツバチ の巣を両手で持たせ、顔のところで静止させ「さあこれから○○君に大切な実験を手伝っていただきます。初めの実験は、ミツバチの巣は…食べられる!という実験です。○○君 、さあどうぞ」「えーっ!」。会場がどよめくことはもちろん、一番驚くのは、手伝って くれている本人。いつもこのネタを使って、場の雰囲気を和ませてから講座を始めている。ちなみにミツバチの巣は、ミツバチがハチミツを食べて、体の中でろうに作り替え、おなかの間接の透き間から分泌したもので、これが「蜜ろう(蜂ろう)」である。 元をたどればハチミツだから、お菓子や口紅 、薬の材料にも使われている。
 もう一つ驚いてくれるのは、ミツバチの巣そのもので作る即席蜜ロウソク。まず巣を平らにつぶし、それをロウソクの糸に巻きつけ、ちょっと手でぎゅっと握って、形を整えればでき上がり。そして部屋を暗くして実際に灯してみる。みつばちの巣が、そのままロウソクになってきれいな灯りを保っている事実は、何よりも具体的でインパクトがあるようだ。詳しいことについては、そのあとにスライド映写をしながら説明している。巣箱の中の、不用な部分に作られた無駄な巣が蜜ロウソクの原料になっていることや、ハチミツ収穫など養蜂の仕事。いちばんの蜜源樹のトチノキのこと。30年も続けて行ってい る蜜源樹の植栽事業のこと。
 そしていよいよ蜜ロウソク作り。作り方はいろいろあるが、人気があるのが溶かした蜜ろうに芯糸を何度も浸して少しずつ太らせる「ディッピング」や、お湯で温めた蜜ろうの 板を手でこねて、粘土のように好きな形をこしらえる「粘土式」。自分で作り上げる世界でたった一本のオリジナル蜜ロウソクは、楽しく小一時間程でできあがる。
 以前はここで終わっていたのだが、家に持って帰っても灯さないことが多いようなので、 なるべく会場を暗くしほんのちょっと灯りを楽しむようにしている。みんな灯りに優しく照らし出され、ちょっとしたいい雰囲気ができあがる。そしてミツバチ一匹は、一生かかって も小さじ一杯程しか蜜を集められないことや、わずか1カ月程しか生きられないこと。わずかしか蜜ろうを分泌できないことを伝えて、蜜ロウソク作り教室を終える。

[夏のハチミツの森体験教室]
 一泊二日でゆっくり体験していただく、夏のハチミツの森体験教室は、ミツバチ観察会 から始まる。まず参加者に、金網面布というネットを麦わら帽子の上からかぶっていただ く。付いているひもを、私の指示通りに体に巻きつけ、透き間ができないように装着するのだが、この時から参加者の緊張がそのこわばった表情から伝わってくる。絶対に余計な動きをしないことなど注意点を約束してもらい、巣箱のふたを開け、巣板を取り出す。「うわぁー」声については何も注意していないのに、歓声が押し殺したものになるから、私の方が吹き出してしまう。女王蜂や女王蜂の産卵、蜜源のありかを仲間に知らせる尻振りダンス、働きバチとオスバチ、卵、幼虫、成蜂誕生の瞬間、巣に蓄えてある色とりどりの花粉、ハチミツはほんのちょっとだけ浅く巣を壊し、じかに手ですくってなめてもらう。蜜ロウソクの原料になるむだ巣も紹介する。終わる頃には、みんなすっかり緊張が解け、ミツバチのベテランに変身している。


 炎天下のミツバチ観察で汗をかいたら、私の仕事場のすぐ裏を流れる清流朝日川で川遊び。子供たちがきれいな水の中で気持ちよさそうに泳いでいると、大人もたまらずパンツ一丁で泳ぎ始めるほど魅力がある。川の中は、水中メガネでのぞくと思い掛けずゆったりとした世界が広がっており、ヤマメやカジカがすぐ目の前に現れる。川遊びは直接養蜂には関係ないけれども、子供の頃の一番楽しい遊びであり、田舎を卑下していた自分が自分らしさや田舎らしさに気づくことができた場所でもある。だから、夏の講座では必ず組み入れることにしている。
 川遊びの終わりには、みんなで小石や流木を拾い、場を移して自然素材のロウソク立てと、それに合った蜜ロウソクの製作に入る。そして夕飯を終え、暗くなったらその鑑賞を始める。明るい時は、どうってことなかったロウソク立てが、蜜ろうの優しい灯りに照らされてとても趣のあるものに変わるから感動的だ。このロウソク立てを使う度に、きっと朝日川で楽しく遊んだ記憶が甦えってくれるのではないだろうか。二日目は少し早起きして、トースト用のハチミツ搾りから始まる。布袋にハチミツのたくさん入った巣を入れ、 手でぎゅうぎゅう搾り濾過する。亡くなった祖母から教わった方法で、山で野生のミツバ チから収穫したものはこの方法で搾っていたそうだ。これは、ハチミツを手で触る感触が何ともたまらない。

[源のハチミツの森へ]
 朝食を食べ、宿泊所の掃除を終えると、これまで体験したことの総括として、トチノキがある源のハチミツの森を訪ねる。広葉樹で構成されるこの辺りの森は、民有林、国有林 、特別保全地域、国立公園、そして養蜂組合が25年前に蜜源樹を植栽した森など、いろんな形態の森が広がる。その中でも国立公園内の樹齢200年も300年もたっている太い樹木の深い森は、樹木一本一本がそれぞれに表情を持ち、独特の存在感を感じさせる。 参加者の感想に「初めはちょっと怖いけど、しばらくするととても気持ちいい場所になる」 というのがあったが、その通りだと思う。私自身、仕事が行き詰まった時や、いやなことがあった時は、いつからか森へ逃げ込むのが習慣になっている。大げさかも知れないが、太い木の下でゆっくりと流れる森の時間の中でぼーっとしていると、優しく頭を撫でてもらっているような気がするのだ。
 「あったかくて、やさしくて、嬉しくて、 楽しくて、なつかしくて、不思議で、ちょっとせつなくて、ありがたくて、とてもいい気持ち」そんな気持ちに充分浸っていただき森を後にし、夏の教室は終了する。

 



(食農教育NO.5 1999年7月夏号「農文協発行」掲載)



ハチ蜜の森キャンドル