初めての海外一人旅


 98年9月、恥ずかしながら初めての海外、イギリス、アイルランドを一人旅してきました。想像通り(目的通り)だったあたふたな旅をご紹介いたします。

『くまのプーさんの村イギリス・ハートフィールドを訪ねて』
 世界中の子供たちに愛されている『くまのプー』の作者A、A、ミルンが住んでいた村がハートフィールドです。この村を舞台にプーさんの様々なお話が生まれました。
 電車やバスの乗り継ぎに何度か失敗しながら、やっとたどり着いたハートフィールドの第一印象は、「きれいな村」。どこを見てもそのまま絵はがきにできそうでした。石で作られた独特の古い家はどこもたくさんの花で飾られ、男の私でさえ、歩いていてウキウキ楽しい気持ちになりました。
  第二印象は、「本当にプーの村なの?」でした。ガイドブックを読んで、日本のように露骨にお金を置いていってもらうことが優先している観光地ではないとは分かっていたものの、想像以上に『Pooh(プー)』の表示もイラストもないのです。ほとんどないと言ってもいいでしょう。それゆえに、この村には私の期待通りの観光がありそうでますますワクワクさせられました。
 パンフレットを片手に、さっそく一番有名な、プーがお話の中で森の中の橋の上から棒を投げて遊んだ『プースティックスブリッジ』を探しました。ところが、英字になれていない私には表示をなかなか探すことができず、グルグル歩き回るはめになりました。でもそのお陰で、村全体を知ることができました。どこまでも広い牧場、オレンジ色の屋根の農家や木立が、遠くにぽつんぽつんと見えました。護岸されていないゆったりした流れの小川のまわりにのんびり草を食べている羊の小さな群れを見つけ、お話のキャラクター『イーヨ』を想像しました。牧場沿いの樹木のトンネルの道は人も自転車も馬も歩いていました。かろうじて残っている昔あったらしき駅のホーム跡。木製の柵やゲート、草花、木苺、どこを歩いてもプーのお話を思い出し、プーがいそうでした。時折ぱらつく雨さえもお話の挿絵にある傘やマッキントッシュ(かっぱ)を思い出させ嬉しくなりました。そして、古くて小さくて見落としてしまいそうな木製の案内板をたどって、いよいよ森の中へ。朝日町の森と比べたら、比べようのない小さなかわいい森ですが、安心感と深さをしっかり感じさせる独特の雰囲気があり、この先には何があるのだろうと妙にワクワクさせられました。舗装されていない土の道は歩いていて足がなつかしく気持ちよく、時折あった茶色い水の水たまりには、プーたちがバシャバシャと遊んでいる様子を想像させられました。そしていよいよ見つけた小さな小さな橋『プースティックスブリッジ』。ちょうど金髪の親子が橋の上で遊んでいて、私の中のプーへの想像もクライマックスになりました。
 村の中でたった一つだけ見つけたプーのイラストが書いてある看板は、『プーコーナー』というプーグッズのおみやげ屋さんの入口にありました。世界で一番の品揃えを誇るその店は、古くて小さな家を改築して使っていました。頭がぶつかりそうな入口のドア、低い天井、ミシミシいう床、ほかのお客さんと背中をぶつけながら買い物をしなければならない程でした。しかし、だからこそ、そこはまるでプーの宝物の詰まったおもちゃ箱のようでワクワクしました。子供たちにイラスト付きの財布を買い、イギリスのコインを入れておみやげにしました。

『妖精の国アイルランドを訪ねて編』
 自然崇拝、ケルト文化、そして妖精のお話のアイルランドは、ゴールウェイに連泊しその周辺の村々を回りました。
 アイルランドの首都ダブリンからゴールウェイへの横断鉄道に乗っていて驚いたのは、どこまで行っても羊ばかり。独特の石積みの柵がえんえんとつながる牧場ばかりでした。そしてどこまで行っても少しの木立しか見当たらず、この国にはもしかして森はないのではと思ったほどです。アイルランド全体がそうではないのかも知れませんが、日本と正反対で、土地が非常にやせている国のようでした。深い森があって妖精の話が生まれたと思っていたので、初めはちょっと気落ちしてしまいました。ただ、しばらく歩いていてこの国の野草の花のきれいさが見えてきました。それは派手な花畑といった感じではなかったので、すぐには気づけなかったのです。石の透き間透き間にいろんな色の小さな花が頑張って生きているといった感じで、それらが太陽の光を浴びてあるいは透かし出されて、少しの風に揺れて、妙に心を打たれてしまいました。それからは益々風景が美しく感じられました。「森林は少ないけど、日本と同じで自然からのワビサビを感じられる美しい国なんだな」と気付くことができました。バス内で流されていた、もの悲しいアイリッシュバラッドには、自分は日本人なのになぜか懐かしさとせつなさを感じさせ妙な気持ちにさせられました。そして村々の民家も店も民宿も、古いものを大切にしていて、どこに行っても、今のアイルランドとそれまで築きあげてきたアイルランドを想像してしまうことに感動しました。日本では今しがたの、或いはそこだけ残してまわりは近代的にといった観光地がほとんどなのではないでしょうか。
 しかも驚いたのは、夕暮れ時、町はついに妖精の雰囲気に包まれたのです。石積みの家々、囲い、黒水の川。青白く薄暗くなり始めるのが9時過ぎなので盛り場以外に人はもう見当たらず、建物の透き間や川岸や端や道端など、どこにでも妖精が出てきそうでした。
「そういえば、この国の妖精のお話は人の暮らしの中にあったな」と思い出しました。それは文化なんだと思いました。経済性や新しさの時代に惑わされず、先人たちが築いてきた心通うものを誇りにして大切に使っているのです。
「日本は木の文化だからすぐに腐ってしまって持たないから仕方ない」と言われる方がいらっしゃいますが、本当にそうでしょうか?今は、自然と人間の生活を完全に分けてしまうような無機質な建物、道、池や川の護岸、まだ使える建物やものを簡単に壊して近代的にしてしまう、あいかわらず使い捨て文化の国では、どんなに田舎でもとても妖精を感じることも、歴史に想像をふくらませることもできないなとがっかりしてしまいました。その結果、深い観光が成り立たないんだと感じました。

『あたふたメモ編』
《いきなりスズメバチ》
 深夜バスでいよいよ出発する日。その日は私も参加するお祭りの日。忙しさで荷物の準備が進まず大焦り。すると、なぜかスズメバチが足をチクッと。仲間が気の毒がって「休んでいいよ」と。お陰で痛い足を我慢しながら荷物を準備。子供達にもよく言い聞かせることができて出発。不思議なことにロンドンに着いたら、痛みもかゆみも腫れもなくなり快適に。とてもありがたい一刺しに。

《入国審査》
 宿泊先を決めていなかったので、不法就労の疑いが。キャシュカードを見せたらOK。

《会話》
 強い味方の旅行用和英辞典を購入して、ポケットに。ところが、ロンドンの空港で紛失。血が引く思い。でも、この旅はあたふたするのが最大の目的。神様の「Let it be. 楽しんで来なさい」の声が聞こえた気がして、15年前の英語力に頼ることに。ファーストフードの店でカタコトが、初めて通じた時はとても感激。その後は、大変さを大いに楽しむことに…。

《蜜ろうのきびだんご》
 お世話になった人に、小さなだんご位の丸い蜜ローソクをプレゼント。外国人にも日本人にも想像以上に喜ばれ、お陰ですてきな繋がりがたくさん。驚いたのは、民宿のおばさんが、「どうして分かったの?今日は私達の50周年の結婚記念日よ」とおっしゃった事。

《ギネスビール》
 とても美味しいギネスビールのアイルランド。意を決してパブに入り、注文した時の事。ボーイが注ぐギネスはなんと泡ばかり、ずいぶん失礼な注ぎ方!しかもボーイは、グラスを置くと忙しそうに違うカウンターに。でも、なんとなく置かれたグラスは私から遠く感じ、何かゴニョゴニョ言ってたので『???』。でも早く飲みたかったので、人目を忍ぶようにゆっくりゆっくり手を伸ばして…グラスに手をかけたその瞬間。「待て!」と、隣のお兄さん。心臓が止まる思い。「どうして」と聞いたら、「泡が引いたらまた注いでくれるら」と。それがギネスの注ぎ方。それ以降、私はパブを見かけると、朝、昼、晩といただくように。なにしろ、どんな田舎でも朝からパブが開いていたのが誘惑された理由。

《ユースの鍵》
 ユースホステルにチェックイン。35-1-4が押しボタン鍵の開け方。フロント係の言う「together」の意味が思い出せなくて、いくらやっても開けられず。結局開けてもらう。意味は「一緒に」押す。一生忘れない単語に。

《栃の木の下》
 3泊したゴルウェイに、ケネディパークという大きな公園。そこに、なつかしい大きな栃の木発見。そこのベンチに腰かけて、普段吸わない煙草とペプシで一服すると元気に。

《格好》
 アイリッシュシャワーと言って、度々シトシトの雨に遭うことと、肌寒いので、大抵は雨具姿。重たい大きなバッグを背負って前傾姿勢。フラフラの足取り。ポケットにはペプシ。帽子は深く。ウィンドウに写る自分の疲れた顔と格好に「俺もなかなか旅人だ!」。

《はずかしい朝食》
 民宿でのこと。まさか朝食にまで食べる順番があったとは!隣で食べていたイギリス人のパンを失敬。ごちそう様を言おうとしたらパンとコーヒーが。赤面。でも、おかずとパンを一緒に口の中に入れたい私は今でも疑問。

《いも イモ じゃが芋》
 主食はじゃが芋なのと思うくらい、どこに行ってもフライドポテトをみんなボリボリ。そして、ベーコンに目玉焼き、パン。どこでも同じメニューにちょっとうんざり気味に。

《帰りの機内食》
  久々の日本食に感激。でも最後の機内食は、あのあきあきした洋食を注文。帰りたくない自分の心情の現れに思わずプッと。結局、日本に帰ってもポテトを度々注文するように。

《お世話になった日本人の皆さん》
 行きの飛行機で、私の過密なスケジュールに的確なアドバイスを下さった束原さん。プーの村からロンドンまで簡単に連れて来て下さった加藤さん、坂本さん。不安なダブリンのユースに居てくれた大羅さん。大塚君。アランでお世話になったあげくにB&Bまで探して下さった五十嵐さん、高杉さん、横山さん。最後の夜をギネスで祝ってくれた日大の中村君。帰りの飛行機で、旅のおさらいに付き合って下さった安田さん。皆さんのあたたかなお心遣いと、あの日あの場所にいて下さった偶然に心から感謝致します。 本当にありがとうございました。